遙かなるUTMB

トレランにはまってUTMBまで行ってしまった外科医の日々のトレーニングや備忘録

ウルトラマラソンやロングトレイルと嘔気

ロングレースになると腹痛がおこったり吐き気がして走れなくなったりということがあります。ロング走る人にとっては結構当たりまえだったりします。僕自身も

2014 上州穂高120  85kmで急激に吐き気 速度低下

2015 上州穂高120  105kmで急激に吐き気 嘔吐

2016 上州穂高120  115kmで急激に吐き気 嘔吐

2016 おんたけ100km 85kmから腹痛

2017 おんたけ100mile 120kmから腹痛

2017 UTMB 100mile 100kmから嘔気、140kmで嘔吐

ほとんど毎回ですねえ。スコット・ジュレクでも起こるようです

最初、低Na血症(塩分不足)かと思ってたんですよね。。。確かに、夏の暑い日に大汗をかいて水分摂取すると、いきなり低Naになって吐くんです。で気をつけて塩分摂取していても全然改善されない。基本的にはレースでしかならないから(まあレース以外でこんな距離走らないですけど)速度が速すぎなんだろうなってことは予想してるんですが。。

 

Western state endurance raceに出た272人にアンケート調査した結果、96%が腹部症状があったとのことで、60%が吐き気でした。また完走できなかったうち35%が腹部症状(90%が吐き気)のため棄権したようです

Gastrointestinal distress is common during a 161-km ultramarathon. - PubMed - NCBI

 

で、嘔気とか腹痛とかこのあたりの症状をまとめて腹部症状として原因と対策を調べてみました。

嘔気などの原因

難しい話は抜きにして次のようなことが起こっているようです。詳しく知りたい方はここから

Physiology and pathophysiology of splanchnic hypoperfusion and intestinal injury during exercise: strategies for evaluation and prevention | Gastrointestinal and Liver Physiology

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実際に100mileレースに完走した20名で調べた研究(多分Western States)では走行中に吐き気を催したランナーほど血中のendotoxin (内毒素)が増加していたようです。これは、腸管にいる腸内細菌が血中に漏れ出してきていることを示しています。嘔気があった人となかった人で、脱水など他の因子には差がなかったとのことでした。 

Nausea is associated with endotoxemia during a 161-km ultramarathon. - PubMed - NCBI

 

対策

完璧なものはないようですが

1. 日々の練習

120分のランニング中に20分ごとにエナジージェル(炭水化物)を摂取する練習を週5日、2週間続けると、続けて行われた180分のランニング中での腹部症状が減少した。

Two weeks of repetitive gut-challenge reduce exercise-associated gastrointestinal symptoms and malabsorption. - PubMed - NCBI

これまで、脂肪燃焼を亢進させるため、練習中は食べないほうが良いと信じてきました。これはこれで間違ってないと思いますが、胃腸障害を防ぐためにはこのようなトレーニングの必要なのかもしれません。

 

2. レース中の食べ物

これは原因か結果かはわかりませんが

100マイルレース完走者で腹部症状がなかった人ほど、水分摂取量が多く、食べた食品中の脂肪分が多かったようです。これは元気だったからばくばく食べれたのかもしれないし、たくさん水飲んで脂肪たべたら大丈夫という意味ではないかもしれません

Association of gastrointestinal distress in ultramarathoners with race diet. - PubMed - NCBI

 

3. サプリメント

詳細は省きますが、グルタミン、アルギニン、シトルリンなどが、腹部症状をおさせるという研究があります。

 

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特に、グルタミンは、腸内環境を良くする医薬品?として大塚製薬からGFO (グルタミン、ファイバー、オリゴ糖)として出ています。このあたりは

bungo1103.hatenablog.com

でも書いてますので参考にしてください。

レース前にグルタミン(0.5-0.9g/kg)を摂取することは多少効果があるかも。。。

 

4. レース展開 

結局、速く走りすぎるから腸管への血流が滞って、障害がおきるわけです。

で、ここからは今回考えたことですが、全身の血流量は脈拍と正比例です。強度が上がるほど、腸管の血流は遮断されます。トレイルで強度がさがるのは下り、というわけで、下りは軽く流して、心拍も落として、腸管を休ませる時間って考えても良いのでは?またロングトレイルでは下りによる筋破壊も大きな問題ですから、下りをゆっくり行くのはかなり理にかなってるのかもしれません。

そしてもう一つ。食べすぎない。食べ過ぎると、それだけ血流が必要になるし、消化できない時は腸内環境を悪化させる大きな因子になるような気がします。このあたりはあまりエビデンスはありません。

 

まだはっきりと対策がわかっていない状況ですが、ウルトラでの腹部症状で困っておられる方の助けになれば嬉しいですね。